ハンガリーで総選挙:4月6日投票
ハンガリーで総選挙:静かな街頭、賑やかな報道
2010年の総選挙後、4年の任期をまっとうしたフィデスが国民の審判を受ける。1990年の民主化後、二期連続で政権を維持したのは2002−2010年の社会党政権しかない。(北海道大学スラブ研究センターのホームページに東欧各国の選挙結果データベースがあるので、詳細はそちらで参照可能 http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/election_europe/hu/result.html)
今回の選挙における最大の見どころは現オルバーン内閣が政権を維持できるかどうかであろう。事前の世論調査ではフィデスが最も高い支持を受けているが、30−40%の支持率に留まっている。2010年総選挙のような3分の2の議席をとる勢いはない。対する前政権党の社会党は、前回の大敗後に分裂し、立ち直れないかに見えたが、今年に入ってリベラル派も含む大同団結がなり、「団結2014」として総選挙に臨んでいる。団結2014を構成するのは旧社会党系の三党【「ハンガリー社会党」:メシュテルハージ・アティッラ党首、「ともに:革新党Együtt-a Korszakváltók Pártja」:バイナイ・ゴルドン党首(元首相)、「民主連合Demokratikus Koalició」:ジュルチャーニ・フェレンツ党首[元首相]】、及びリベラル系の二党【「ハンガリー・リベラル党」:フォドル・ガーボル党首(元フィデス幹部)、「ハンガリーのための対話」:サボー・ティーメラ共同代表(あとで述べる「別な政治を」からの分派)】である。この団結2014にはかつて社会党と連携していた自由民主連盟の政治家(クンツェ・ガーボル、フォドル・ガーボルなど)も加わり、いわば左派連合とも言える陣容である。支持率は20%ほどで、出遅れたにしては善戦している。
無党派は20%で、日本ほど多いわけではない。残り20%あまりの有権者のうち、過激な民族派と言われるヨッビクが15%ほどの支持を集めている。党員も4年前の1万人から1万6千人に増えたと言われ、前回の17%を上回るほど支持をのばすのか、それとも前回のようなヨッビク旋風はもう吹かないのか、これが今回の選挙のもう一つの争点である。ヨッビクはハンガリー語でJobbikと表記し、「右派」とも訳せるし、「より良い」という意味にもとれる。反ユダヤ主義を平然と口にし、EU脱退を公約に掲げている。
ヨッビクの他に前回の選挙では、リベラルな環境派を中心とする「別な政治をLehet Más a Politika (通称LMP)」も比例区で5%の壁を越える7%の得票率を獲得した。しかし「別な政治を」は議会内で独自路線を貫けず、事実上分裂した。このため、今回の総選挙では5%の壁を越えるのは困難な状況にある。
現在の国会に議席を持つ以上の四政党以外に、60ほどの小政党が候補者を立てている。その中にはかつて議席を有していた「小農業者党」や、「社会民主党」、「労働者党」等の「懐かしい政党」もある。また昨年に地方で旗揚げした「ハンガリー・ジプシー党」も含まれる。しかし世論調査結果によれば、いずれの小政党も比例区で5%の壁を越えて議席を獲得する可能性は非常に低い。比例区と並ぶ小選挙区では、政党名ではなく、個人名で投票する。もちろん例外的に二大政党以外から当選する場合もあるが、小政党にとって比例区ほどではないにせよ、小選挙区での勝利も容易でない。
選挙戦で日本のように、街頭宣伝カーが大声で候補者名を連呼することはない。ポスターが広告塔や決められた掲示板に貼られている程度で、見た目は静かな選挙戦である。地区ごとの演説会があり、各戸に演説会のチラシがまかれているが、フィデス以外は資金不足のせいか、チラシ攻勢は影を潜めている。
選挙戦の中心はテレビ討論である。もっとも今回の選挙では、大きな政策上の争点形成が行なわれず、相手の失点を暴く誹謗中傷合戦になっている。特に目立つのは旧社会党幹部に対する不正資金疑惑であり、実際に逮捕者も出た。デレビ局のニュースもこの話題を頻繁に取り上げ、反社会党キャンペーンの一翼を担っているかのようである。フィデスに対しても「新興財閥」との政治的癒着を批判する報道が行なわれている。
二大政党による誹謗中傷合戦が激しさを増すと、当然の結果として、有権者の大政党に対する不信感が募っていく。それが第三勢力への支持拡大に結びつく可能性は高い。とりわけヨッビクに票が流れるのではないかと考えられている。まさにこの点が、社会党系とフィデス系の二派に分かれた白熱のテレビ討論で、司会者に指摘された瞬間、両派が急に和んだ態度に豹変したことがあった。
4月6日が投票日である。この投票に参加できるのは、18歳以上のハンガリー国民だが、今回からは事情が少し変わる。ここに今回の総選挙のもう一つの見どころがある。つまり、外国籍でも二重市民権でハンガリー市民権を持つ者は、総選挙に参加できるようになったのである。ハンガリーの近隣諸国に合計で200万人を越えるハンガリー系住民が少数民族として存在する。この人々をハンガリーの国政選挙に参加させようという考えである。ハンガリーの人口が1000万人なので、その20%に相当する規模である。オルバーン首相は前政権時代(1998年−2002年)からこの「国外ハンガリー人」を「ハンガリー国民」として統合する政策を打ち出し、様々な権利を「国外ハンガリー人」に与えてきた。その代表例が「地位法」と呼ばれる特別立法措置であり、隣国でのハンガリー語教育支援などを実践してきた。2010年からの第二次オルバーン政権では、二重市民権を国外ハンガリー人に積極的に供与する施策を行ない、今回の総選挙から二重市民権を取得した国外ハンガリー人が、比例区に限られるが、国政選挙に参加できるようになった。もっとも実際に投票するのは数十万人程度ではないかと予想されている。フィデスはその大半が自党に流れると期待しているが、果たして国外ハンガリー人はどう判断するのか、これも今回の選挙の争点である。(2014年3月15日)